お客様から留学先についてご相談を受けるとき、
非常に多いのが次のようなものです。
「標準語を勉強したいので北京に留学したい」
ハッキリ言いますが、これ、間違いです。
完全な勘違いです。
北京語は中国の標準語ではありません。
まず、
●「北京語」とは「北京方言」のことです。
大阪弁や博多弁と同じ、地方の方言です。
北京語とは北京で話される「北京弁」のことです。
そして、
●中国の標準語は「普通話」です。
普通話とは一種の人工的に作られた言語です。
北方言語の語彙と、「北京官話」の発音をベースにしています。
では北京官話とは何かというと、
明清の宮廷官僚が使っていた言葉です。
北京市民の北京弁とは異なります。
北京は中国の首都ですし、
「北京語」という単語がやたら流通してますし。
北京語が標準語と誤解するのは致し方ないことです。
でも、
「北京が首都だから北京語が中国の標準語」
というのは、
「東京が首都だから江戸っ子のべらんめぇ口調が日本の標準語」
と言っているようなものなんです。
中国の標準語は北京語ではない。
このことはしっかり認識してください。
中国の標準語である「普通話」。
これが最も標準的に話されている地域は、
●黒龍江省ハルビン市
●吉林省長春市
と言われています。
私は中国の主だった都市はすべて行っていますが、
確かにこの2都市は抜群に聞き取りやすいです。
ハルビンに行くと自分の聴力が上がったように感じます。笑
よく東北地区は発音が標準的と言われますが、
瀋陽やチチハルなど他の都市でも訛りがありますし、
日本人留学生が多い大連なんて豪快に訛ってます。
それに比べると、ハルビン、長春は別格です。
では、中国に留学するならば、
ハルビン、長春以外はダメなのか?
これについて、私は否定的です。
理由は5つあります。
まず第一に、大学の授業はすべて普通話で行われます。
中国の大学で中国語を教える教師は、
おしなべて標準的な普通話を使います。
外国人向け中国語教師は国家資格を持っているのですが、
その条件の中に普通話の標準さも含まれています。
そのための試験もちゃんとあるんです。
ですので、北京だろうと上海だろうと広州だろうと、
教室の中で使われるのは標準的な普通話です。
第二に、若い学生は標準的な普通話を使います。
全国放送のテレビを見て育った若い世代です。
地方の方言しか話せないなんてことはありません。
もちろん、地方出身者同士では方言を使います。
ですが標準的な普通話も正確に話せますので、
彼らとの交流で困ることはありません。
第三に、訛りに接する機会が実は少ないんです。
ちょっと複雑な話になるのですが、
まず「方言」と「訛り」の違いを説明しましょう。
日本では方言と訛りは同じ意味です。
ですが、中国では全く別の意味です。
「方言」とは、その地域特有の言語です。
これは普通話とはまったく異なります。
別の国の言語くらいに思ったほうが良いです。
例えば、あえてカタカナで表現しますが、
「日本人」の発音は、
普通話…リーベンレン
上海語…サバニン
地下鉄のアナウンスで「次の駅は」というのは、
普通話…シァイジャン
広東語…ハイヤザム
日本でいう「方言」とはぜんぜん違うレベル。
まったく別の言語くらいに思ったほうが良いです。
では「訛り」とは何かというと、
「発音や声調の変化」です。
例えば「我是日本人」の「是」の発音。
普通話では「シー」ですが、
南方では「スー」になります。
これが発音の変化です。
また、四川地方では第4声が第3声に近くなります。
上から下に下がる声調がありません。
ちょっと乱暴な言い方ですが、
中国語における「訛り」とは、
「不正確な発音の普通話」のことです。
さて、それではこれらが語学留学にどの程度影響するか。
実はほとんど影響しません。
まず「方言」ですが、
これはどっちみち聞き取れません。
アメリカに行ってフランス人に出会うようなものです。
まるっきり聞き取れないわけですから、
方言を聞くことで自分の発音が悪くなる、
なんてことは起こりえません。
アメリカに行ったら周りがフランス人だらけで、
フランス語訛りが身についた。
そんなことありえないでしょ。笑
次に「訛り」。
これは影響を受けます。
問題は影響を受ける「程度」です。
午前は大学で授業。
午後は学内で互相学習。
ここまでは訛りの影響を受けません。
だって、学内ですから。
教師も中国人学生も標準的な普通話ですから。
影響を受けるとしたら、
学外に出た時です。
みなさん、冷静に論理的に考えてみてください。
まず、学外にどれくらい出ますか?
食事のメインは学食です。
たまに大学近辺の食堂に行く程度です。
食事以外で出るとすると、
週末に買い物に行くくらいです。
そもそも、学外に出る機会が少ないんです。
そして学外に出て、地元民と会話をする機会。
つまり、訛りでやり取りをする機会。
イメージしてみてください。
校門を出て戻ってくるまで具体的にどれくらいあるか。
料理を注文するのと、値段を聞く。
他に何がありますか?
学外では訛った普通話が使われている。
それは100%間違いない事実です。
ですが、その影響を受けるのは、
具体的かつ論理的に考えると、
留学生活全体の数%にも満たないのです。
第四に、中国語は訛りに寛容な言語です。
私は中国は全省、全自治区を訪問しました。
大学があるような規模の町は百数十見てきています。
訛りのない町なんて皆無です。
ハルビンと長春は発音が非常にキレイと書きましたが、
長春人に言わせると、長春にも長春弁があるそうです。
大学取材で長距離列車で移動することが多いのですが、
北京人と上海人と四川人が、
互いに訛った普通話で賑やかに会話している。
それが中国の現実です。
学術的な根拠があるわけではないのですが、
多少訛っていても通じる。
それが中国語であると私は理解しています。
第五に、発音に完璧は必要ありません。
日本人はなにせ完璧主義ですので、
何事にも完璧を求めます。
ですが、発音に完璧は必要ありません。
日本で活躍する外国人を見てください。
完璧な日本語の発音を身に付けている人、
どれだけいますか?
「そこが変だよ、日本人」でしたっけ?
外国人がたくさん出てくる番組がありましたよね。
あれに出てくる外国人、
みんな発音が変だったでしょ。笑
でも、コミュニケーションは十分に取れてる。
そして、少なからずが我々日本人より稼いでる。笑
日本人は「完璧」な発音を求めます。
ですが、外国語学習に必要なのは、
「通じる」発音です。
求めるべきは完璧な正確さではなく、
通じる程度の正確さなんです。
70%の正確さでコミュニケーションに支障がないならば、
それを100%まで引き上げるのは時間と労力のムダです。
その30%を英会話の習得につぎ込んだほうが、
あなたのキャリアは確実にあがります。
語学は実学です。
実用ツールです。
日本人の美学を持ち込んではいけません。
以上5つの理由から、
私は過度に発音の正確さを求める必要はないと考えています。
誤解してほしくないのですが、
私は発音の正確さを否定しているのではありません。
不正確より正確であるほうが良い。
70%より100%のほうが良い。
当たり前のことです。
留学する地域の発音が訛っているより正確のほうが良い。
言うまでもないことです。
でも、
教員や学生の発音はおしなべて正確であり、
地元の訛った発音に影響される機会は非常に少ない。
さらに、中国語は訛りに寛容な言語であり、
そもそも外国語は完璧でなくても通じる。
そして、
「発音以外にも重視すべき条件がある」
例えば、
●ハルビンで1クラス25人
●訛った地域で1クラス5人
みなさんどちらを選びますか?
はたまた、
●長春で2人部屋しか空いてなくて日本人だらけ
●訛った地域で1人部屋キープで日本人は皆無
どちらのほうが学習環境としてより良いですか?
留学先を選ぶ条件に、
発音のキレイさを入れることは間違いではありません。
ですが、発音のキレイさは絶対の最優先条件ではありません。
完璧な発音でなければならないわけでもない。
発音以上に重視すべき条件もある。
完璧を美徳とする我々日本人には、
受け入れ難い考え方かもしれません。
ですが、非常に大切なポイントです。
ぜひ一度じっくり考えてみてください。
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【今週のまとめ】
1) 北京語=標準語は完全な間違い
2) 発音に完璧さは必要ない
3) 他に重視すべき条件がある
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